東京高等裁判所 平成5年(行コ)83号 判決
控訴人
スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合エッソ大阪支部
右代表者執行委員長
入江史郎
控訴人
久保田幸一
右両名訴訟代理人弁護士
北村行夫
同
中西義德
同
駒宮紀美
同
澤本淳
同
川村理
被控訴人
中央労働委員会
右代表者会長
萩澤清彦
右指定代理人
北川俊夫
同
鈴木重信
同
中島芙美子
同
池田稔
同
山崎光範
被控訴人補助参加人
エッソ石油株式会社
右代表者代表取締役
エル・ケイ・ストロール
右訴訟代理人弁護士
小長谷國男
同
佐藤博史
同
今井徹
同
高橋一郎
同
中島秀二
同
名取勝也
主文
一 本件各控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
1 原判決中、控訴人らの敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人が、昭和五七年(不再)第三三号、同第三四号各不当労働行為再審査申立事件について平成元年二月一五日付けでした命令のうち、控訴人スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合エッソ大阪支部の控訴人久保田幸一の昭和五一年の昇格についての救済申立てを却下した部分を除く部分及び被控訴人が、昭和六一年(不再)第七九号、昭和六二年(不再)第四〇号各不当労働行為再審査申立事件について平成元年四月一九日付けでした命令をいずれも取り消す。
3 訴訟費用は、補助参加により生じたものを含め、第一審、第二審を通じて被控訴人、被控訴人補助参加人の負担とする。
二 被控訴人
主文同旨
第二当事者の主張
当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次に加除訂正するほかは原判決の事実及び理由欄の第二に摘示されたとおり(ただし、本件命令(一)の控訴人久保田の昭和五一年の昇格に関する部分を除く。)であるから、これを引用する。
一 原判決(本誌六三一号〈以下同じ〉)事実摘示の加除訂正
1 原判決六頁四行目の「所在する」(29頁3段17行目)を「所在していた」に、同八行目の「全石油」(29頁3段22行目)を「全国石油産業労働組合協議会」に、同一一頁四行目の「六月二三日」(30頁2段26行目)を「七月八日」に、同一三頁三行目の「同年」(30頁3段2行目)を「昭和五八年」にそれぞれ改め、同六行目の「記載のとおり」(30頁3段16行目)の次に「(ただし、別表(二)の四頁一〇行目と一一行目の間に『久保田幸一殿』を加える。)」を加え、同一四頁三行目から四行目にかけての「二月一五日付け」(30頁4段22~23行目)を「四月一九日付け」に、同二二頁七行目の「効果」(32頁2段2行目)を「考課」に改める。
2 同二四頁三行目の初めの「団体交渉」(32頁3段2~3行目)を「団体交渉の開始」に、同二六頁六行目の「同日」(32頁4段20行目)を「既に」にそれぞれ改め、同七行目の「決意し、」(32頁4段21行目)の次に「同日」を、同三〇頁一〇行目(33頁3段13行目)の末尾に「なお、仮に、争議通告がなされていないとしても、控訴人久保田の業務命令拒否は平和条項違反の争議行為となるだけであり、控訴人支部に労働協約不履行の責任が生じるだけであって、控訴人久保田の争議行為の正当性を失わせるものではない。」をそれぞれ加え、同四五頁五行目の「覚書の適用がある」(35頁4段25~26行目)を「控訴人支部にも事前通知すべきである」に改める。
二 当審における主張の追加
(控訴人)
昭和五七年六月二三日に本件出勤停止がなされているのであるから、一事不再理の原則により、本件懲戒解雇は、その後に生じた事由に基づいてのみなされるべきものであるところ、控訴人久保田は、本件出勤停止後である同年七月五日から本件懲戒解雇処分が言い渡された同月一三日までの間、業務命令拒否の姿勢は貫いたものの、積極的な業務妨害行為はしていない。
さらに、控訴人支部は、このころ戦術ダウンを模索し、同月五日には、控訴人久保田が、渡辺課長に、「六月一日からの担当顧客の変更内容を具体的に説明してほしい。」旨申し入れ、同月一二日には、控訴人支部が、大阪支店の団体交渉の代表者難波睦朗(以下「難波」という。)に対し、団体交渉の事務折衝において、「業務命令書には不明の点があり、控訴人久保田のどの業務を引き継げと言っているのか。団体交渉でも事務折衝でも問わないから、控訴人支部に説明すれば控訴人支部は検討する用意がある。参加人は解決する意思はないのか。」と申し入れた。
このように、控訴人久保田が積極的な業務妨害行為を一切行わず、逆に業務命令に従うべくその内容の具体的な説明を求めたにもかかわらず、参加人はこれを拒否し、間髪を入れずに本件懲戒解雇処分をしたものであり、本件懲戒解雇処分が参加人の不当労働行為意思に基づいてなされたものであることは明らかである。
(被控訴人)
控訴人久保田は、渡辺課長らの再三にわたる指示にもかかわらず、担当顧客を引き継がずに旧顧客の訪問を続けたため、参加人は、控訴人久保田に対し、昭和五七年五月二五日、新業務に直ちに従事するよう命じた業務命令書を発したが、控訴人久保田はこれに従わなかった。そこで、参加人は、控訴人久保田に対し、本件出勤停止をするとともに、同年七月五日、再度業務命令書を交付して右業務命令に従うよう求めたが、翌日、控訴人支部から、大阪支店に対し、控訴人支部が控訴人久保田に再度業務命令拒否指令を出した旨の通告書が提出された。右通告書は、控訴人支部及び控訴人久保田が今後も新業務を徹底して拒否し続ける意思を表明したものである。
また、大阪支店と控訴人支部は、同月五日、右各業務命令について団体交渉をしたが、お互い平行線のままであったため争議確認をした。そして、このとき、大阪支店は、新業務の内容について具体的な問題があれば、その点については何時でも団体交渉に応じると言ったが、控訴人支部からはそのような趣旨の団体交渉の申し出はなかった。もとより、控訴人らが主張する、同月五日の控訴人久保田の渡辺課長に対する申入れ及び同月一二日の控訴人支部の難波に対する申入れの事実は存在しない。
このように、本件出勤停止後も、控訴人久保田の業務命令拒否の態度は変わらなかったため、参加人は、控訴人久保田に対し、職場秩序維持の観点から止むなく本件懲戒解雇をしたものであり、本件懲戒解雇は、決して重すぎるものではなく、不当労働行為意思に基づくものではない。
第三争点に対する判断
当裁判所も、被控訴人が、昭和五七年(不再)第三三号、同第三四号各不当労働行為再審査申立事件について平成元年二月一五日付けでした命令(ただし、控訴人スタンダード・ヴァキューム石油自主労働組合エッソ大阪支部の控訴人久保田幸一の昭和五一年の昇格についての救済申立てを却下した部分を除く)及び被控訴人が、昭和六一年(不再)第七九号、昭和六二年(不再)第四〇号各不当労働行為再審査申立事件について平成元年四月一九日付けでした命令はいずれも正当であると判断する。その理由は、次に加除訂正するほかは原判決の事実及び理由欄の第三ないし第五に認定説示されたとおりであるから、これを引用する。
一 原判決五一頁八行目の「セクレタリ」(36頁4段18~19行目)を「セクレタリー」に改め、同五七頁五行目(37頁4段7行目)の次に改行のうえ、「なお、参加人は、第一次評価監督者に対し、各種の監督者研修において、人事考課制度の趣旨、目的及びその具体的な運用方法を説明して、同制度が適正に運用されるように努めている。」を、同六三頁六行目から七行目にかけての「一七四、」(38頁3段29行目の(証拠・人証略))の次に「一八〇、」を、同一〇行目の「五五五」(前に同じ)の次に「、七七八」をそれぞれ加え、同六四頁六行目の「参加人本社工業用製品支店」(38頁4段3~4行目)を「参加人本社工業用製品部」に改め、同一〇行目(38頁4段12行目)の末尾に「なお、工業用製品支店は、中国地区を担当区域として同種品目の営業を行っている広島工業用製品営業所(当時の従業員数は約五名)も管轄していた。」を、同六六頁四行目(39頁1段11行目)の末尾に「また、技術課所属のエンジニアにも一部顧客を担当してもらうことにした。」を、同六七頁一一行目の「支店長は」(39頁2段10行目)の次に「各セールスマンの」をそれぞれ加え、同七〇頁三行目から四行目にかけての「顧客が参加人製品にどのような反応を示したか、」(39頁3段25~26行目)を「参加人製品を自社でテストした結果を顧客に提出したことが記載されているものの、顧客がそれに対してどのような反応を示したか、更に」に改め、同七一頁一一行目(39頁4段26行目)の末尾に「そして、控訴人久保田は、同年一二月末までの同顧客担当期間中に右目標を達成することができなかった。」を、同七七頁一行目の「原告久保田は、」(40頁3段30行目)の次に「右のとおり、直轄グループにおける業務を円滑に遂行することができなかったため、」をそれぞれ加え、同七九頁七行目の「発表準備にほとんど」(41頁1段20~21行目)を「発表準備について勤務時間後はほとんど」に、同八一頁二行目「所在する」(41頁2段19行目)を「所在していた」に、同八二頁二行目の「集会」(41頁3段8行目)を「無断集会」に、同八三頁七行目の「職能等級Ⅱ」(41頁4段3行目)を「セールスマンⅡ」に、同八四頁一行目から二行目にかけての「乙九号証」(41頁4段14行目の(〈証拠略〉))を「乙一一四号証」にそれぞれ改め、同三行目(41頁4段17行目)の末尾に「なお、伊藤課長は、同従業員評価表のコメント欄に『与えられた仕事は一応処理する。が、問題意識をもって積極的に解決・市場開拓を行う姿勢に欠ける。現状を自ら分析し問題を解決する面で改善が望まれる。』と記述した。」を加え、同四行目から五行目にかけての「過去一年間の業績は平均的であったと思う」(41頁4段19~20行目)を「、過去一年間の業績は、時間的な余裕がなく、新規カストマーの開拓は思うようにいかなかったが、仕事全般で見て平均的であったと思う」に改め、同八六頁一行目から二行目にかけての「ついては、」(42頁1段24行目)の次に「同一グループ六名中最下位であり、」を加え、同八七頁九行目(42頁2段27行目)、一一行目(42頁2段31行目~3段1行目)、同八八頁四行目(42頁3段7行目)及び同六行目(42頁3段11行目)の各「専門職Ⅰ」を「専門職セールスマンⅠ」に、同九行目の「また、」(42頁3段17行目)から同一〇行目(42頁3段19行目)の末尾までを「また、昭和五二年度昇格に係る工業用製品支店一般従業員の組合別の評価結果は、別紙(一)の二九頁記載の表のとおりであり、A評価は一人もいなかったところ、控訴人支部のもう一人の組合員の評価はB1であった。」に、同八九頁二行目の「一二月」(42頁3段24行目)を「六月」に、同九行目の「(なお、」(42頁4段6行目)から同一〇行目の「いないが、」(42頁4段9行目)までを「(なお、人事考課の時期の関係上、昭和五二年二月以降の勤務状況は、評価結果を変更しなければならない程の変化があった場合に、上級監督者及び給与委員会に上申されることになっていたが、」にそれぞれ改め、同九〇頁五行目の末尾(42頁4段20行目)に「なお、控訴人らは、従前懲戒処分が人事考課に反映されたことはない、控訴人久保田と同じ理由で同時に同一の懲戒処分を受けた控訴人支部の役員も、C評価を受けていない旨主張しているが、人事考課は個別性を有するものであるから、右控訴人支部の役員二名がC評価でなかったとしても、そのことから直ちに右懲戒処分が人事考課に反映されていないことになるわけではないところ、乙二九三号証によれば、参加人は、支店長クラスの上級監督者に対しては、支店長会議等で懲戒処分の存在を考慮して人事考課をするように指示していたことが認められるから、控訴人らの右の主張は理由がない。」を、同九一頁一行目の末尾(43頁1段2行目)に「なお、本件各証拠によれば、個々的には、参加人が、控訴人支部に対し、反組合的な意図でなしたものと推認される行為が存在しないわけではないけれども、右説示のとおり、控訴人久保田に対するC評価は正当なものであり、それらの行為から直ちに、右C評価が不当労働行為の意思に基づいてなされたものと推認することはできない。」をそれぞれ加える。
二 同九二頁七行目の「争いのない事実、」(43頁2段1行目の(証拠略))の次に「甲一二ないし一四号証、一五号証の一、一六号証の一ないし六、一七号証の一、二、」を、同行の「乙」(前に同じ)の次に「六一二、」を、同行の「六二八、」(前に同じ)の次に「六三六、六三七、七〇一、」を、同行の「七一四、」(前に同じ)の次に「七二三、七二四、」を、同八行目の「七八六、」(前に同じ)の次に「七八七、七八八、」を、同一〇行目の「一〇一七、」(前に同じ)の次に「一〇一八、」を、同行の「一〇二一、」(前に同じ)の次に「一〇三六の一ないし三、」を、同九三頁一行目の「一四」(前に同じ)の次に「、一六」を、同行の「乙」(前に同じ)の次に「六一二、七八七、七八八、」をそれぞれ加え、同七行目(前に同じ)の「一〇六七、」及び「、一〇六九」をそれぞれ削り、同八行目の「証言」(43頁2段7行目)の次に「、控訴人久保田の供述」を加え、同九四頁一行目の「思考」(43頁2段15行目)を「志向」に、同二行目の「人事配置」(43頁2段17行目)を「人員配置」に、「適性化」(43頁2段17~18行目)を「適正化」に、同九五頁一一行目の「後記六」(43頁3段25行目)を「後記6」にそれぞれ改め、同九六頁七行目(43頁4段7行目)の末尾に「これに対し、控訴人久保田は、労使間で合意が成立していないのに機構改革を強行実施するのは問題であるとして、業務の引継ぎを行わなかった。」を、同九行目の「一三社」(43頁4段11行目)の次に「(ただし、内一社は実際の業務はほとんどなし。)」を、同九八頁九行目の「5(一)」(44頁1段21行目)の次に「参加人とス労本部との機構改革に関する団体交渉は、昭和五六年一〇月から一二月にかけて五回行われたが、主として機構改革そのものについて話し合われた。また、ス労本部は、昭和五六年一一月四日、各支部・分会に対し、それぞれ各支部・分会単位の機構改革の具体的な内容、労働条件の変更について団体交渉を持つように指示した。」を加え、同九九頁四行目の「内容」(44頁2段2行目)を「変更内容」に改める。
三 同一〇二頁一行目の「要員」(44頁3段25行目)を「要因」に改め、同一〇三頁二行目の「労働協約」(44頁4段16行目)の次に「三一条二項」を加え、同一〇四頁一行目の「販売課」(45頁1段4行目)を「販売課長」に、同一〇五頁三行目及び四行目(45頁1段26行目)を「渡辺課長は、その後も再三業務の引継ぎ及び旧顧客の訪問禁止を控訴人久保田に命じたが、控訴人久保田はこれを拒否し、旧顧客を訪問し続けた(ただし、後記(六)のとおり旧顧客から苦情が出たため、神原商店については訪問を中止した。)。」にそれぞれ改め、同五行目の「(四)」(45頁1段30行目)の次に「同年五月二五日、渡辺課長が、控訴人久保田に対し、新入社員の配置に伴う同年六月一日からの担当顧客の変更表を見てほしいと言うと、控訴人久保田は根本問題の解決が先決である旨述べてこれを拒否した。」を加え、同行の「同年五月二五日」(45頁1段30行目)を「同日」に、同一〇六頁六行目の「担当顧客の変更を伝えた。」(45頁2段21~22行目)を「担当顧客の変更を伝え、同年六月二日、渡辺課長は、控訴人久保田に対し、右担当顧客の変更に従って引継ぎを行うよう指示した。」にそれぞれ改め、同一一行目の「旧顧客」(45頁2段24~25行目)の次に「(ただし、神原商店を除く。)」を加え、同一〇九頁八行目(45頁4段25行目の、「これは~」)から一〇行目(45頁4段31行目の、「~て、」)までを「これは、懲戒解雇、出勤停止事由を定めた就業規則六二条五号(職場の風紀又は秩序を乱したとき)及び同条一〇号(六一条のうち特に情状が重いとき)、六一条三号(職務上の指示命令に従わず、職場の秩序を乱したとき)に該当するとして、同規則六〇条三号を適用して、」に改める。
四 同一一〇頁八行目(46頁1段15行目)から同一一三頁六行目(46頁3段11行目)までを次のとおり改める。
「8 同月二六日、ス労本部は、控訴人支部に対し、控訴人久保田への業務命令拒否指令を解除するよう指示したが、控訴人支部はこれを拒否した。
9 同年七月五日、島村支店長は、本件出勤停止を終えて出勤してきた控訴人久保田を支店長室に呼び出して、業務の引継ぎを命じようとしたところ、控訴人久保田が、『組合と会社の問題だ。』と言って職場に戻ってしまったため、控訴人久保田の執務席に赴き、アサインメント表(担当顧客名を記載した表)を示して話を始めようとしたが、控訴人久保田は再度『組合と会社の問題だ。』と言って話し合いを拒否した。
そこで、参加人は、同日、控訴人久保田に対し、従来から命じられている業務に至急従事するよう命じるとともに、これに従わない場合には然るべき処置をとる旨の業務命令書(以下「七・五命令書」という。)を発した。
控訴人支部は、直ちに大阪支店に対し、同命令書及び五・二五命令書について団体交渉の申し入れをした。そして、控訴人支部と大阪支店は、本件出勤停止について予定されていた同日の団体交渉の席上で右各業務命令についても団体交渉を行った。大阪支店は、その席上、業務命令は控訴人久保田個人に対するもので団体交渉事項ではない、控訴人久保田が新業務に就いたうえで労働条件に重大な影響が生じればその時点で団体交渉を実施すると主張し、これに対し、控訴人支部は控訴人久保田の業務命令拒否は控訴人支部の指令によるもので、団体交渉事項である旨主張した。結局、右主張は平行線のまま、大阪支店と控訴人支部は、同日、五・二五命令書及び七・五命令書の件について棚上げ確認をした。
控訴人支部は、大阪支店に対し、同日、右各業務命令に関する団交拒否について抗議するとともに、控訴人久保田に対する業務命令拒否指令を継続する旨通知する抗議書を出した。
10 同月六日、渡辺課長は、控訴人久保田に対し、担当顧客及び引継相手の名前を具体的に上げて業務の引継ぎを指示したが、控訴人久保田は、私の態度は変わらない旨述べてこれを拒否した。
控訴人支部は、大阪支店に対し、同日、控訴人久保田に再度業務命令拒否指令を発した旨通告した。
11 同月七日、渡辺課長は、新商品説明等のトレーニングに参加しようとした控訴人久保田に対し、アサインメント表を示して、トレーニングに参加せず、従来から命ぜられている業務の引継ぎを優先して行うように命じたが、控訴人久保田は、機構改革についての労使間の解決が先決である旨述べて、これに従わなかった。また、控訴人久保田は、同日、旧顧客である奈良鈴商の新担当者に対し、同人が同社関係のデータを控訴人久保田に無断で処理したことについて抗議した。
なお、機構改革に伴い業務変更を生じた従業員で、同年六月以降に至っても業務命令に従わず新たな業務に就かなかった者は、控訴人久保田一人だけであった。
12 同月八日、控訴人久保田は一日有給休暇を取った。
13 同月九日、控訴人久保田は、工業用製品支店に出勤せず直接得意先に赴いたが、渡辺課長に呼び戻されて、引継相手を待たせてあるから直ちに業務引継ぎをするよう指示された。しかし、控訴人久保田はこれを拒否した。
なお、控訴人久保田は、同日付けの組合ビラに、『機構改革に反対し、業務命令拒否を解除するように指示してきた本部書記長の反合斗争からの逃亡を絶対に許さない。』旨の署名入り主張を掲載していた。
控訴人支部は、大阪支店に対し、同日、五・二五命令書及び七・五命令書の件について団体交渉を要求したが、大阪支店は業務命令は控訴人久保田個人の問題であり、団体交渉事項ではないとして、これに応じなかった。
また、ス労本部は、控訴人支部に対し、同日、再度、控訴人久保田への業務命令拒否指令を解除するよう指示したが、控訴人支部はこれを拒否した。
14 同月一〇日は土曜日、翌一一日は日曜日で、工業用製品支店は休日であった。
15 同月一二日、渡辺課長は、控訴人久保田に対し、業務の引継ぎを指示したが、控訴人久保田は依然としてこれを拒否した。
控訴人支部は、同日付けの組合ビラで、絶対このままで引下がるわけにはいかない旨主張していたが、ス労本部の役員らの口振りから、参加人が控訴人久保田を解雇する可能性もあると感じ、紛争解決の糸口を模索する意図で、同日午後に行われた事務折衝において、難波に対し、『会社もどういう仕事をやって欲しいのか言ってこい。組合は検討するから。』、『業務命令書にはずいぶん分からんところがある。それについて会社は説明しろ。』、『組合は解決しようとして団交で見解を聞こうとしているのに、会社はそれもやらんというのなら組合は受けて立つ。』、『本人もどういう引継ぎなのか分からんから説明しろと言っている。組合に申し入れろと言っている。』などと発言したが、難波は、そのような控訴人支部の意向に気付かず、控訴人支部は依然として機構改革粉砕のために五・二五命令書及び七・五命令書の件について団体交渉の申し入れをしているものと思い、『業務命令は団交議題ではない。』、『単なるアサインメントの変更だ。』、「ミーティングで聞いておられるでしょ。』、『業務命令書を貰った時に聞けばいいでしょ。』、『組合は拒否指令で会社と交わる点がなかった。』、『会社は今までどおりです。』と答えて、五・二五命令書及び七・五命令書の件を団交議題とすることを拒否した。
16 同月一三日、渡辺課長と島村支店長は、控訴人久保田に対し、午前、午後の二回にわたり、業務の引継ぎを命じたが、控訴人久保田は、機構改革についての労使問題の解決が先決である旨述べて、これに従わなかった。
そこで、島村支店長は、控訴人久保田が本件出勤停止後も業務命令を拒否し続けているのは、就業規則六二条五号(職場の風紀又は秩序を乱したとき)、同条一〇号(六一条のうち特に情状が重いとき)及び六一条三号(職務上の指示命令に従わず、職場の秩序を乱したとき)並びに六二条一一号(その他、前各号に準ずる不都合な行為をしたとき)に該当するとして、同規則六〇条四号を適用し、同日、控訴人久保田に対し、同月一四日付けで懲戒解雇する旨伝えた。」
五 同一一五頁一一行目の「仕事内容」(46頁4段28行目)を「セールスマンとしての職種」に改め、同一一六頁三行目(47頁1段2行目)から同一一八頁二行目(47頁2段9行目)までを次のとおり改める。
「3 控訴人らは、大阪支店と控訴人支部の間には、控訴人支部三役の所属職場の変更について労働協約三六条に基づいて事前協議する旨の昭和四八年六月五日付け確認書(〈証拠略〉)が存在するところ、大阪支店は、控訴人支部の執行副委員長である控訴人久保田の業務変更について協議していない旨主張する。
(証拠略)によれば、右確認書の大阪支店長西井正臣及び控訴人支部執行委員長中本靖博名下の各印影は、同人らの職印によって押捺されたものと認められるが、同人らはいずれも右確認書の存在を否定している(〈証拠略〉)ことからすると、右確認書が真正に成立したものと認定するには躊躇せざるを得ない。
仮に、右確認書が真正に成立したものであるとしても、(証拠略)によれば、右確認書は、当時工業用製品支店に所属していた組合三役の一人である村石文彦を、労働協約三六条五項を潜脱するために、同支店所属のまま京都駐在職員にして組合活動を妨害しようとしたことが契機となり、今後このようなことがなされるのを防ぐために作成されたものと認められるところ、控訴人久保田の場合は、機構改革の前後を通じて職種及び勤務場所は変わりがなく、その所属の変更は工業用製品支店の営業組織の再編に基づくものであって、労働協約三六条五項を潜脱する目的でなされたものではないこと、控訴人支部も、大阪地労委に右確認書を提出するまで、控訴人久保田の業務変更が右確認書に違反する旨の主張は全くしていなかったことを考慮すると、控訴人久保田の今回の業務変更は、実質的にみて右確認書にいう所属職場の変更に該当しないものと解するのが相当である。
したがって、いずれにしても、大阪支店は右確認書に違反していないものというべきである。」
六 同一一八頁八行目(47頁2段21行目)及び九行目(47頁2段24行目)を「しかし、控訴人らは、大阪地労委及び中央労働委員会はもとより、本件懲戒解雇が争点である大阪地方裁判所に対する仮処分事件(〈証拠略〉)及びその本案事件(〈証拠略〉)においても、控訴人久保田の業務命令拒否は正当な組合活動であるとのみ主張し、本件懲戒解雇から七年後の本件訴訟の原審に至って初めて正当な争議行為である旨の主張をし出したものである。」に、同一一九頁四行目(47頁3段5行目)及び七行目(47頁3段10行目)の「ス労」をいずれも「控訴人支部」に、同五行目の「争議」(47頁3段7行目)を「争議行為」に、同一〇行目の「スト通告」(47頁3段16行目)を「○○通告」に、同一二〇頁二行目の「足り証拠」(47頁3段22行目)を「足りる証拠」にそれぞれ改め、同二行目(47頁3段22行目)の次に改行のうえ、「そして、控訴人久保田の業務命令拒否は、その態様において争議行為であるか否か判然としないものであったところ、控訴人支部は、大阪支店に対し、控訴人久保田が業務命令拒否を開始した後においても争議通告書を発した事実はないのであるから、これに前記認定の控訴人らが争議行為である旨の主張を始めた時期をも考慮すると、控訴人久保田の業務命令拒否は、争議行為としてなされたものではないと解するのが相当である。」を、同六行目(47頁3段30行目)の次に改行のうえ、「なお、控訴人らは、参加人の業務に支障は生じていない、顧客の苦情は、控訴人久保田を陥れるために参加人があえて作り出したものであるから、控訴人久保田の責めに帰しえない旨主張するが、昭和五七年三月以降顧客から苦情の声が上がらなかったとしても、新旧二人の担当者が顧客を訪問することは、参加人の業務運営上看過できない事態であることは明らかであるうえ、参加人が控訴人久保田を陥れるためにあえて右の事態を生じさせたものと認めるに足りる証拠はないから、控訴人らの右の主張は採用できない。
また、控訴人久保田の業務命令拒否は、参加人本社とス労本部の団体交渉事項である機構改革それ自体の撤回を求める闘争の一環としてなされたものであるところ、右はス労本部の指令に反してなされたものであるから、争議行為としても正当性を欠くものというべきである。」をそれぞれ加え、同七行目の「以上の諸点を考慮すると」(47頁3段31行目)を「以上によれば」に、同八行目の「労働協約所定の事前通告を欠き、」(47頁4段3行目)を「ス労本部の指令に反し、」にそれぞれ改め、同一二一頁七行目の「できない」(47頁4段23行目)の次に「(最高裁判所第三小法廷昭和五三年七月一八日判決・民集三二巻五号一〇三〇頁参照)」を加える。
七 同一二一頁八行目(47頁4段24行目)から同一二二頁五行目(48頁1段9行目)までを次のとおり改める。
「四 控訴人らは、大阪支店は団体交渉の開始を引き延ばし、控訴人支部の要求を無視して実質的に団体交渉を拒否し続けた、また、控訴人久保田に対する業務命令は、同控訴人解雇に向けての口実つくりである旨主張する。
しかし、大阪支店における機構改革についての団体交渉の開始が遅れたのは、機構改革に基づく具体的な変更内容が明らかになるまで待っていたためであり、故意に団体交渉の開始を遅らせたものでないことは前記認定のとおりである。そして、機構改革は全社的なものであるから、機構改革それ自体については参加人本店とス労本部との団体交渉ですべきものであり、大阪支店はその改廃についての権限を有しないから、機構改革により組合員の具体的な労働条件に変更のある場合について団体交渉すれば足りるものと解されるところ、大阪支店は、控訴人支部との間で、機構改革について実質的には三回の団体交渉を持ち、機構改革の概要を説明し、『現時点では要員削減はしない。控訴人久保田の労働条件に重大な影響があればその時点で団体交渉を申し込めばよい。』としたのに対し、控訴人支部は、機構改革そのものの撤回を求めてこれに固執し、それに伴う具体的な労働条件の変更について協議に入ろうとしなかったのであるから、大阪支店が、『これ以上検討しない。』として団体交渉を打ち切ったとしても、その責めを大阪支店に帰することはできない。また、控訴人久保田に対する業務命令が、同控訴人解雇に向けての口実つくりであることを認めるに足りる証拠はない。
したがって、控訴人らの右の主張は採用できない。
なお、大阪支店が、控訴人久保田に対する業務命令について団体交渉を拒否したことが仮に不当なものであったとしても、前記説示のとおり正当である業務命令が不当なものになるわけではないし、業務命令拒否が正当化されるわけでもない。また、そのように仮定しても、参加人の不当労働行為意思を推認する根拠としては不十分であることは後記五記載のとおりである。」
八 同一二三頁七行目の「また」(48頁2段4行目)の次に「公平さに欠けるとか」を加え、同一二四頁二行目(48頁2段14行目)から七行目(48頁2段25行目)までを次のとおり改める。
「 控訴人らは、本件懲戒解雇は、一事不再理の原則により、七月五日以降に生じた事由に基づいてのみなされるべきものであるところ、控訴人久保田は、その間、業務命令拒否の姿勢は貫いたものの、積極的な業務妨害行為はしていない、また、控訴人らは、業務命令に従うべく、渡辺課長や難波に対し、その内容の具体的な説明を求めたにもかかわらず、同人らはこれを拒否し、間髪を入れずに本件懲戒解雇をしたものであり、本件懲戒解雇が参加人の不当労働行為意思に基づいてなされたものであることは明らかである旨主張する。
しかし、同月五日から一三日までの控訴人久保田の業務命令に対する態度及び控訴人支部の機構改革に対する姿勢は前記認定のとおりであり、控訴人久保田は、連日の渡辺課長や島村支店長の業務引継命令にもかかわらず、一貫して機構改革問題の解決が先決であるとしてこれを拒否していたものであり、たまたま右期間中は旧顧客に対する訪問予定はなかったものの、今後とも旧顧客への訪問を継続する意思であったことは、旧顧客である奈良鈴商の件について新担当者に抗議していることからも明らかである。そして、同月五日以降の業務命令拒否について、それが本件出勤停止処分をうけた直後の行為であることは、情状面においてマイナス評価されても止むを得ないものであり、このことは一事不再理の原則に反するものではない。
また、同月五日、控訴人久保田が、渡辺課長に、六月一日からの担当顧客の変更内容を説明してほしい旨申し入れた事実は認められないが、同月一二日、控訴人支部が、紛争解決の糸口を模索する意図で、難波に対し、事務折衝において、『会社もどういう仕事をやって欲しいのか言ってこい。組合は検討するから。』などと申し向けた事実が認められることは前記認定のとおりである。しかし、控訴人らは、これまで機構改革粉砕の強行路線をとり続けていたものであること、控訴人久保田に対する業務命令の内容は、大学卒の専門職にとって容易に理解できるものであり、これについて説明しろというのは言い掛かりと思われても仕方がないこと及び大阪支店と控訴人支部の信頼関係に欠ける当時の状況からすると、難波が、控訴人支部の意図に気付かず、控訴人支部の姿勢は変わっていないものとして、『会社は今までどおりである。』旨答えたことは無理からぬものといえる。
さらに、参加人は、右一二日の時点では既に控訴人久保田の本件懲戒解雇を決定していたが、翌一三日においても島村支店長らが業務の引継ぎを指示していることから明らかなとおり、右決定は、控訴人久保田が業務命令に従うことを解除条件としてなされたものと容易に推認することができる。
したがって、控訴人支部が難波に対し右のとおり申し入れた事実があること及び本件懲戒解雇の直前である昭和五七年七月八日に本件出勤停止について大阪地労委に救済を申し立てたことを考慮しても、あるいはこれに加えて控訴人ら主張のとおり業務命令に対する大阪支店の団交拒否が不当であったと仮定してみても、参加人に、労組法七条一号、三号または四号の不当労働行為意思が存したとは推認できず、本件出勤停止、本件懲戒解雇は、いずれも不当労働行為に該当するものとは認められない。」
第四結論
以上の次第で、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加茂紀久男 裁判官 林道春 裁判官 柴田寛之)